剣の神で荒々しい事もするが傷瑕は女子だから、自分の容姿に気を遣っているのは分かってくれるだろう。彼女にとって、足を失っているという事へのコンプレックスはあまりにも大きい。そしてその状態のまま放置した人物に対しての恨みも、かなり大きい。
そう、切っ先が欠けたまま修理もせずに奉納して終わりにした神。スサノオである。彼女が鏡外を破壊するのは、後述するなみに対する怒りが主な原因の一つだが、スサノオに対する恨みもかなりの割合を占めている。
彼女は鏡外[傷]6面ボスにして、傷鏡事件の首謀者。鴨草京から見て南東の方角にある深韴神宮勢力のトップだ。同名の神社に祀られている神であり、かつては御魂宮さきという神としての名前を持っていた。
主な部下として、神宮の巫女である櫛稲宮やえが居る。やえと傷瑕は同じ目的を持っており、ある時それを知ったやえが傷瑕に協力を申し出る形で、現在の主従関係となった。
鏡外[虹]は八咫鏡に焦点を当てた作品であり、続く2作品も三種の神器に関係したストーリーとなっている。[傷]は三種の神器になれず、切っ先が欠けたままの状態で奉納された天羽々斬の、復讐の物語という訳だ。
切っ先が欠けたまま、という天羽々斬の特徴は、そのまま傷瑕の容姿にも表れている。彼女の両足は存在しておらず、傷瑕はそれをコンプレックスとしている。だからその事実を隠すべく、本来足を覆うロングスカートを、そのまま異界(恐らくは深韴神宮の境内)に繋げて誤魔化しているのだ。
主な攻撃は、剣による刺突である。神としての名前や、現在の名字の由来ともなっている布都御魂(別名・韴霊剣)という剣を主に使っている。だが彼女の本質は、彼女の中に取り込まれているもう1本の剣である天羽々斬(別名・布都斯魂剣)にある。なお、彼女のテーマ曲は「天羽々斬 ~Abandoned Sharpness」。
天羽々斬は、ヤマタノオロチ退治の際にスサノオノミコトが使っていた剣である。ヤマタノオロチの尾の中に天叢雲剣(別名・草薙剣)が眠っていた、とは有名な話だが、天羽々斬はそれに当たって刃が欠けてしまう。
スサノオはここで、それまで使っていた天羽々斬を石上布都魂神社へ(後に石上神宮へと移される)、新たに見つけた天叢雲剣をアマテラスに献上している。
隔世(史実)でも、天羽々斬が置かれた石上神宮は一騒動起こしており、それが[傷]のストーリーの元となった。この騒動の発端となったのは桓武天皇の平安京遷都である。桓武天皇は平安京を守る為に、804年にはそれまで石上神宮にあった全ての神宝を葛野郡に移動している。だがそれから四季が一巡した頃、桓武天皇は病に倒れてしまう。最終的にこの病の原因は、石上神宮から移された布留御魂大神の祟りであるとされている。
史実の石上神宮には、主祭神の布都御魂大神の他にも、神宝の神霊である布留御魂大神、天羽々斬の神霊こと布都斯魂大神と、似たような名前の神が祀られている。鏡外の歴史では、これらが長い歴史の中で混同されていき、御魂宮さきという一柱の神になった。
傷鏡事件は、御魂宮さき改め深韴傷瑕が鴨草京の天皇である石凝宮なみを弱体化させるべく、なみの作った鏡外自体を破壊する為に起こった。史実で布留御魂大神が桓武天皇を祟ったのをモチーフとしたからこういう話になっている、というのはここだけの裏話。
鏡外で剣と言えば、鴨草京には鍛冶屋を営んでいる鶴城なた乃という人物が居る。なた乃はあまり手荒な手段を好まない為、傷瑕と手を組んで事件を起こす事は無い。
しかしそれ以外の点では、傷瑕となた乃の意見が一致する事は非常に多く、実際に彼女らはとても仲が良い。布都御魂や天羽々斬のメンテナンスはなた乃が行う事も多く、結果として平日の昼間から鍛冶屋の奥にある鶴城邸で寝ている事がよくある。
櫛稲宮やえとはもともと神として知り合いではあったものの、かつてはスサノオを巡って火花を散らす仲であった。
スサノオの右腕として共に戦っていた傷瑕。物品に宿る神は、そのほとんどが長く付き合った使用者に対して特別な感情を抱いたり、神通力自体を使用者に依存してしまう傾向にある。傷瑕とて例外ではない。
対してやえは、そうした半ば強制的な感情の変動ではなく、純粋にスサノオに恋をした人間であった。スサノオとやえはやがて結ばれ、その恋の力はただの人間だったやえを神にしてしまう程だったというから、傷瑕はその関係性に嫉妬していた時期もある。
今現在では2柱は手を組んでいるが、決してこれも彼女らの仲が良いからではない。純粋なやえを傷瑕が騙して良いように使っている、という側面はかなり強い。ただし、やえもスサノオに捨てられた経験から、剣使いに対する不信感がある。やえが騙されている事に気付けば、傷瑕はまた敵が増えるだろう。